TOCの窓    NO.133 教育格差は親の経済力に比例しているのか?

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TOCの窓                NO.133

教育格差は親の経済力に比例しているのか?

私は父を早く亡くし母子家庭でしたし、私自身も大学卒業後紆余曲折を経て、作った家庭も決して裕福ではなかったのですが、子供たちは3人とも奨学金を受けて国立大学に行き、医者になりました。経済力はないのですが、単に珍しい例外の一つなのでしょうか。決して自慢する気持ちはありません。ただ今日、教育の分野では、教育格差・学力格差という言葉があたりまえのように使われています。そして、教育格差は親の経済力に比例しているという言説が最近の流行です。果たしてそうなのでしょうか。そんなに単純なのでしょうか。

私が子どもだったころ、一部の金持ちは別として、みんな貧しかったし、親の経済力とは関係なしに勉強ができる子どもはたくさんいました。ただ私のいた神戸の高羽小学校では、1967年頃には市立でありながら「別勉」と称して、学校教師が金持ちの子弟を集めて各家庭持ち回りで受験指導をするという塾の前段階ともいうべき体制が出来上がっていました。大規模塾もある現代では一体何が変わったのでしょうか。

1980年代半ばのバブル景気到来を境に、消費主体として分断された個人や家族は、経済力に応じて自己実現のためのさまざまな手段を手に入れようと奔走し(いわゆる財テク)、地域共同体の桎梏から逃れようとし始めます。その結果、学校は存立の基盤である地域共同体の支えを失ったと言われています。情報化社会はこの趨勢とパラレルに進展していきます。そして、すぐれた情報もそうでないものも等価に人々の前に投げ出される。企業は情報の差別化を加速する。心脳コントロール社会の登場というわけです。結果として、情報の価値を識別する能力のある層とそうでない層がくっきりと色分けされるようになります。ご存知の方も当然おられると思いますが、実は経済的な格差は情報識別能力と比例して広がっているといわれています。
教育の世界に話を戻すと、教育格差を生み出しているのは、親の経済力だけではありません。経済力があっても、もっともらしい情報を鵜呑みにして振り回されている親が多いことを考えると、「教育格差を生み出しているのは、親の経済力」という主張には無理があります。これは、現象を結果から見ているに過ぎません。経済的な格差は原因ではなく結果なのです。

結論から言うと、教育格差を生み出しているのは、実は家庭の文化力なのです。この文化力には二つの側面があります。一つは、子どもにきちんと挨拶をさせる、朝ごはんは必ず食べさせる、夜更かしをさせない、家の手伝いをさせるといった生活の基本的な型を作る力のことです。しつけをきちっとして、学習に向かわせる姿勢を身につけさせることは、本来、経済力とは関係なく家庭でできることです。二つ目は、親の情報識別能力です。具体的にいうと、子どもたちが学ぶ知識にレベル差があることを親が理解できているかということです。TOCでも面談で時々話すのですが、知識には以下の4つのレベルがあります。算数を起点に例を挙げてみましょう。

1:分数の割り算のやり方を知っているレベル。

2:なぜ、分母と分子をひっくり返して掛けるとよいのか、その理由を理解しているレベル。

3:こういった知識を持っていることが教室の中でどのように評価されるかを知っているレベル。

4:このような評価の仕組みが、疑われることのない、当たり前のこととして受け入れられている世の中のからくりを知っているレベル。

現在は、この知識のレベル差に応じて教育格差が広がり、結果として、経済格差につながっているのです。文化資本主義とよばれる所以です。そして、学校やほとんどの進学塾で教えられる知識は1のレベルで止まっています。進学塾に長年通わせているのに結果が出ないとぼやいている家庭はこのレベルの知識の習得が終着点と考え行き詰っています。学ぶ当事者としての子供の内面も見落としている場合が多いです。そして私がTOCで確かめると、2のレベルに達している生徒は実に少ないのです。2は一応教えられていても形だけです。割り算や分数・割合の本質、分数の割り算が通分と関係していること、それが中学・高校の数学の中でどのように生かされていくのかなど、ほとんど理解できていません。

例えば、ファーストフード店に代表される外食産業の接客マニュアルを思い浮かべてください。それは、かなり接客能力の低い人を前提に、大量に、最短の時間で、とりあえず最低限の社会的基準(学校の定期テストや高校入試必勝マニュアルに当たります)をクリアすることを目的に作られています。その結果、このマニュアルをクリアしても、能力は低いままなのです。この低い能力を社会的基準以上に高める仕組みはありません。どんな客にも同じパターンを、機械のように繰り返すだけです。返答の仕方、笑い方まで決まっています。相手を見て対応することなど不可能なのです。しかし、それはそれで、社会の必要性に答えています。手軽で早いことは価値の一つですし、それだからこそ逆に消費者は安心できる面もあります。

すべての方法には、それぞれの目標があり、前提とする能力、その方法によって高められる能力のレベルが決まっています。それをしっかり見極め、自分が求めている能力にふさわしい方法を選ばなければなりません。そして、この点こそが大事なのですが、多くの方法は、能力の現状をそのままに、それをいかに有効に使えるかだけを問題にしています。入試問題の解き方だけを覚えても、その前提である能力そのものが現状のまま維持されるのであれば、学ぶことそのものは永遠に続く苦役になるでしょう。結果として、「教科書や参考書にのっているようなすでに内容が決まっている知識を、ある量、なんとかテストまでに頭に詰め込む」ことが勉強と考え、それを少しでも楽に効率よくさせてくれるのが勉強法だと考えるようになります。

 中核的な概念、知識、公式などと、周辺部とが関連付けられているような知識体系が有効で、そのような知識体系の形成を目指して勉強しようという発想は出てきません。私がTOCで教える方法は、能力を伸ばすこと自体を第一の目的としています。ですから、努力が必要です。「最短時間」で「効率よく」、というわけにはいきません。

もちろん、塾は「最短時間」で「効率よく」生徒の学力を伸ばし、不況ともなれば「最小の費用」でという要求にも応えなければならない産業です。学校と違い、激しい競争にさらされ、「市場の淘汰圧」を受けていることで人々の信用を得ています。「この情報になら対価を払ってもよい」という消費者が一定数確保できなければ存立できません。その厳しい条件が塾の発信する情報の質を保証していると人々は考えているようです。

 原理的には確かにそうかもしれません。しかし、現実はそうではない。「この情報になら対価を払ってもよい」という情報消費者の「ニーズ」に迎合することで、塾の発信する情報の質は一貫して低下し続けているのです。生徒を増やそうとすれば、宿命的に塾は「よりリテラシーの低い不特定多数の保護者」を相手にしなければならないからです。つまり保護者が「興奮する素材」を絶えず提供し続けなければ生き残れないということです。塾が提供できる「興奮する素材」とは「合格実績」と「受講料の値下げ」しかありません。

 

食品の産地偽装や汚染米の流通が問題になるのは、健康に大きな影響を与えるからです。しかし、人間の心や精神に影響を与える知的情報の偽装や汚染度は、影響が目に見えないために問題にされません。私は知的情報の劣悪さが子どもたちの日々の振る舞いや思考にどのように影響を与えているか、目の当たりにしています。情報識別能力のある家庭の文化力とは、直感的であれ、意識的であれ、こういったことのからくりがわかっていることを指します。

労働力は商品ではありません。同様に、子どもたちの学力もファーストフード店で売られている商品ではないはずです。魂をもった子どもたちを商品扱いすれば、そのツケはかならず払わなければなりません。家庭の中でも、国家のレベルでも。

ですから、私は入塾を子どもの現在の学力で計りません。きちんとしつけがされているか、勉強する意欲があるかだけを判断基準にして、先着順で受け入れています。特に最近の3回の闘病経験と、やっと自分たちの子育てを終えたことは、この方針として特に意識するようになってきましたし、このような場で次々と私の内面を披露し始めた所以でもあります。

最後になりましたが、実は知識のレベルには5があります。それは、「このような評価の仕組みが、疑われることのない、当たり前のこととして受け入れられている世の中のからくりを知って(4レベル)、それをどう変えていけばよいのかを知っているレベル」です。これは教育の最終目的であり、価値判断の問題になります。そして、知ることは価値判断と無縁ではない。つまり、知ることは、どう生きるかということと結びついているのです。

じゃあ、また。

                              TOC徳塾

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